「お気に入りの器が欠けてしまった。できれば自分の手で金継ぎして今後も愛用したいけど、漆はかぶれそうだし、金継ぎの手順も道具の選び方も分からない…」
そんな方に、金継ぎ講師の私が、初心者向けの金継ぎキットや、自宅で本格的に金継ぎできる方法をお教えします!
本記事の内容
初心者におすすめの道具セット
金継ぎの手順【100均アイテムも活用!】
金継ぎとは【敷居の高いものではない】
「金継ぎ」とは、割れたり欠けたりした陶磁器を漆のパテで修復し、その上に金粉を蒔いて仕上げる伝統的技法。漆を使った修理や装飾は縄文時代からあったようですが、金粉を施した金継ぎが登場するのは15世紀の室町時代。茶の湯文化の開花がきっかけだと言われています。
私は金継教室を始めて4年ほどになりますが、はじめの講義でこの解説をすると「やっぱり、格式高いんでしょ。私なんかにできるのかなぁ」と引いてしまわれる方も。。。
でも、考えてみてください。漆ってただの樹脂ですから!
天然素材で耐久性にも優れているので、食器にも安心して使用できます。年が経つにつれて色に深みが出てくるのもまた、魅力なんですよ。
たしかに金継ぎは格式高い「漆芸」の一つ。なので、高尚なお重なんかに施されているような蒔絵まで学びたい、という場合は話が違います。ですが、金継ぎだけなら、覚えることはそれほど多くありません。生漆の扱い方や乾かし方、細い線を引くコツ、金粉を蒔くタイミングなどを掴んでしまえば、ご自宅でお料理をするような感覚で楽しめます。さらに、漆の扱いを覚えると、100均の器を自分好みにアレンジすることだってできるんです!
ちなみに、近年、金継ぎは結構注目されていることもあり、必要な道具一式が揃った金継ぎセットもいくつか販売されていますし、100均アイテムも活用できます。これからご紹介していきますね。
初心者向けの金継ぎセット3つを比較
【PR】こちらがおすすめ
Youtube動画あり
2.金継ぎスターターセット(老舗の漆屋さんが考案したもの)¥7,480
簡単な解説あり。練習用の器付き
3.金継ぎコフレ(老舗の漆屋さんが考案したもの)¥16,500
金継ぎコフレ(老舗の漆屋さんが考案したもの)¥16,500
プロによる動画解説付き
3つとも、金継ぎに必要な最小限の道具は一通り揃っていますし、ていねいな手順書や動画付きで便利です。ただ、より本格的に金継ぎをしたい場合には、道具を足す必要があります。
それぞれの特徴を簡単に比較すると、1と3には、生漆をはじめ、砥粉や弁柄粉などもついているので、少し大きめの欠けも本格的に修復できます。2には粉類はついていませんが、練習用の器がついています。筆を洗ったり、漆を希釈したりするために使うテレぴん油までついているのは3だけですね。
お値段などなどを考えると、「続けるか分からないけれど、とにかく金継ぎをやってみたい!」という方には2がおすすめ。3もクオリティはいいのですが、やや高いので、本格的に金継ぎを始めると決めている方向けのキットですね。
金継ぎの基本的な手順【100均アイテムも活用!】
「割れ」「欠け」「ヒビ」など、器の壊れ方にもよりますが、基本的には、接着→補修→地塗り→金粉蒔きというステップで修復していきます。私の金継ぎ教室で実践している方法で、身近にある道具を活用しながら、より本格的に金継ぎする方法を説明します。※それぞれのステップの詳しい解説については、別稿(写真付き)をご覧ください。
前処理(割れ/欠けの場合)
耐水ペーパーで器の割れた面を慣らし、接着しやすくします。
※ヒビの場合は、ケガキやスティック状のやすり(100均のものでOK)を使い、ヒビをなぞるようにして少し溝を作ります。
接着(割れの場合)
まず、小麦粉と水を1:1で混ぜて練ります。それに生漆を同量混ぜ、耳たぶくらいの硬さに練って天然接着剤(「麦漆」と言います)を作ります。小麦粉に含まれるグルテンという成分のベタベタが接着の役割を果たします。ちなみに、水+小麦粉の代わりに炊いたご飯粒で代用してもOK。この麦漆で割れたパーツをしっかりと接着します。ずれないようにぎゅっと組み合わせ、麦漆が少しはみ出るくらいがベストです。その後、1週間ほど放置します。
※漆が乾くには適度な湿度と温度が必要。25℃湿度80%の蒸し風呂を使うのが最適と言われています。多湿になると表面にシワがよってしまいます。ただ、初心者がこの環境を維持するのは難しいと思うので、やや時間はかかりますが、ホコリなどがかからない環境で放置するのがよいと思います。
欠け(大きめ)の補修
麦漆と砥粉(木粉を加えることもある)を練った、少し荒めのパテ(「刻芋(こくそ)」)を作り、欠け部分を補填します。乾くと少しかさが減るので、やや多めにのせておきましょう。その後、1日くらい放置します。
小さな欠けやヒビの補修
砥粉と生漆を1:1弱で混ぜた「錆漆(さびうるし)」を塗って補修します。同様に1〜2日ほど放置。※錆漆は刻芋よりキメが細かいので、小さな欠けやヒビ、刻芋で埋まらなかった穴などの補修に向いています。
水研ぎ・地塗り
耐水ペーパーを水で濡らしながら、刻芋や錆漆を塗った面の凹凸を滑らかにします。平になったら、黒い漆を薄って、下地を作ります。この時描いたラインが金を蒔く時のベースになるので、ていねいに描きましょう。はみ出してしまったら、綿棒や100均のネイル用コットンウッドスティックで拭き取っておきましょう。
金粉蒔き
黒漆を塗った面を水研ぎし、その上から弁柄漆を薄く塗ります。30分〜1時間ほど放置し、表面に少し膜ができたタイミングで真綿や筆を使って金粉を蒔きます。そして1〜2週間放置。※金を蒔くタイミングは、筆の跡が消えて少し色が変わったあたりです。また、息をかけてみて、一瞬、虹色に変色する(「青息」と言います)タイミングが最適、とも言われています。
仕上げ(粉固め)
余分な金粉をきれいに拭き取り、水研ぎの要領はみ出たラインなどを整えます。その後、透漆で線を薄くなぞり、すぐにティッシュペーパーで拭き取ります。色がつかなくなるまでしっかりと拭き取ってOKです。金粉を薄い漆でコーティングすることで、金粉が定着します。そして最後に、ラインを磨きあげて好みの雰囲気に仕上げ、漆が乾くまで放置します。※鯛の牙で磨くのがベストですが、100均のネイル磨きでも代用できますよ。
筆の洗浄・管理方法
テレピン油を筆につけ、竹べらでしごいて漆を落とし、ティッシュでしっかりと拭き取ります。その後、なたね油(なければサラダ油、米油などでもOK)で同様にします。ティッシュに漆の色がつかなくなったら、油を筆先に染み込ませてラップで包んだ状態で保管しましょう。
まとめ
自宅で本格的に金継ぎを楽しむための手順を解説してきましたが、いかがでしたか?私の教室でも、始めてみると「慣れたら自でもできそう!」という方が多くいらっしゃいます。天然素材で食器に施しても安心ですし、何より、時間が経過すると、色や艶も奥行きが出てくるのが漆の魅力です。器を大切に育てていきたい方はぜひ、試してみてくださいね。なお、時間の経過によって味が出てくる漆の特性を利用して、器をリメイクすることもできます(別稿参照)。「100均の器はお手頃で使いやすい!でも個性がないし、味気ないのよね…」という方は、ぜひ、好みの漆リメイクにもトライしてみてください